2018.12.01| 情熱のイタリアコラム

No.4 マエストロとワイン その2

さて、今回も引き続き、マエストロことレオナルド・ダ・ヴィンチにまつわるお話です。
彼はワインに関してこんな言葉を残しています。「それにしても、良きワインのある土地に生まれた人間は、なんと幸多き人々であることよ」。一瞬、マエストロにしてはなんと凡庸な、と感じたことを覚えています。当時の流通システムの観点からしても、まったくその通りなのですが、何かもっと〝超人レオナルド〟としての言葉を期待していたからかもしれません。

しかし前回のコラムで書いたエピソードのように、彼のワインに対する純粋ともいえる姿勢に思いを巡らせているうちに、はたと、マエストロはワインの前では一人の〝人間レオナルド〟になれたのではないか、という気がしてきたのです。それなら彼の言葉にも大いに納得がいきます。

マエストロが生きたルネサンス期には、科学的な解明が次々となされ、彼自身も科学者としてその進歩を担っていました。ただし、そんな転換期においても、ワインは未だ神秘的な飲み物で、まさに神の領域〝バッカスの仕業〟とされていたのです。ワイン誕生のメカニズムが科学的に証明されるのは、何と、19世紀も後半になってからのこと(現在でも解明されていないことが数々あります)。
マエストロをも、その前にひざまずかせたワインの途方もない魅力、いや魔力!? は、まさにこの神秘性にあったのではないでしょうか。だからこそ、 彼にとってワインを飲む時は、超人レオナルド・ダ・ヴィンチという肩書きを外し、素の人間としてその幸福感に浸ることができたのではないかと、想像は膨らむばかりです。

来る2019年は、レオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年にあたり、世界各地で関連イベントが催されます。彼の残したさまざまな功績を通じて、ルネサンスの巨人としてのマエストロに触れるだけでなく、ワインを通じて人間レオナルドにも触れてみませんか?ワインをこよなく愛したこの〝心の飲み友〟(笑)を偲んでグラスを傾ければ、きっと彼を身近に感じ、その幸せなひと時を共有することができるかもしれません。レオナルドをも魅了した〝ワインの魔力〟をもってすれば、それも可能なのではと思えてくるから不思議です。これだからワインって楽しい!

クオルス・イタリア駐在員/小関智子 Tomoko Koseki

クオルス・イタリア駐在員/小関智子 Tomoko Koseki

エミリア・ロマーニャ州在住。AIS(イタリアソムリエ協会)のソムリエの資格と公認添乗員ライセンスを持つ。現地で出会ったワイナリーとクオルスを繋いでいる。

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