2020.02.01| 特集

PARMA!パルマハムの美味しさの秘密

イタリアの生ハムの王様といえば「パルマの生ハム Prosciutto di Parma」。同じくパルマには「パルミジャーノ・レッジャーノ」もある。なぜパルマなのか?
クオルス・リストランテで提供しているCLAI(クライ)の生ハムは、原材料は肉と塩のみ。それでいて豊かな味わい。その鍵はパルマの気候風土 (ミクロクリマ)と伝統の技だ。近代的でクリーンな工場には活躍するのは熟練のマエストロがいて、途中、「パルマの風にあてる」という過程も。テクノロジーとトラディショナルが同居する製造工程を見せてもらった。
パルマの風を当てないと美味しく仕上がらない。

パルマ中心部から車で30分ほどの「ランギラーノ地区」。ここは、イタリア北部を東西に二分するアペニン山脈からの風が生ハム作りに適していることから、生ハム工場がひしめいている地域だ。ここで作られ、厳しい規格基準をクリアした生ハムだけが「プロシュット・ディ・パルマ=パルマの生ハム」を名乗ることができ、原産地呼称制度であるD.O.Pを与えられる。  訪れたのはクオルス・リストランテで提供される生ハムを製造している1860年創業の「CLAI」。原料となる豚の生育から製品まで一貫した品質管理を行なっている。

 

生ハムの原料となるパルマ豚。肉の表面は美しいピンク色をしている。

 

肉質をチェックしながら、余分な部位をそぎ落として形を整える。

 

「パルマはもともと畜産業が盛んで、生ハムに適した良質な豚、豚を育てる良い飼料、そして何より、地形がもたらす最適な湿度と温度、さらには独特な風といった、生ハム作りにはこの上ない条件が揃っているんです。言い換えればこの環境を最大限生かした作り方が伝統になったともいえます」と工場を案内してくれたマルチェロ・バリッリさん。原料となる豚にパルミジャーノ・レッジャーノの製造過程でできるホエーと呼ばれる乳清を与えるなど、美食の土地ならではのつながりも興味深い。「パルマ公国」として宮廷文化が花開いたこの地には今も、現在も劇場、教会、街並みに優雅な雰囲気が残っている。そんな文化的な土壌に花開いた「美食の街の食文化」の花形、「プロシュット・ディ・パルマ」の製造工程を見てみよう。

 

生ハム工房クライ社のマルチェロ・バリッリさん

 

作業は全て手作業 熟練の技と自然の恵みのコラボレーション

 

“マエストロ・サラトーレ”と呼ばれる熟練の職人が手作業で塩を擦り込む。

生ハムづくりは「豚の後ろ脚に塩を擦り込み、熟成させる」これが工程の全てと言っても過言ではない。とはいえ、できあがるまでには湿度、温度を含む細心の環境整備と18ヶ月に及ぶ熟成期間が必須だ。

工場には綺麗にカットされてほぼ同じ形状に整えられた豚の脚が並んでいた。「プロシュット・ディ・パルマ」の呼称を得られるのは、イタリアの中北部の10州の認定された養豚場で9ヶ月以上をかけて育てられた約150kg以上の「パルマ豚」を使った生ハムのみ。中でもCLAIの生ハムには生育期間10~11ヶ月、体重170~200kgの「最高級生ハム」に適した豚が使われる。

 

塩のすり込みに使うのは、イタリアの海塩だけ

 

ももの切り口に豚の脂と米、塩を練ったものを塗りつける作業。湿度と塩分を適度に保つ。

まずは塩の擦り込み。指定のイタリア海塩のみを“マエストロ・サラトーレ”と呼ばれる熟練の職人が擦り込んでいく。最初の擦り込みの後、1週間後に肉をマッサージ。柔らかくして塩の浸透を促したら、2回目の擦り込みを行い、1℃前後の低温と適度に保たれた湿度のもとで4ヶ月程度保存。その後、長い乾燥熟成期間に入る。面白いのはこの間に「パルマの風に当てる」工程があること。近代的で密閉された保存室の一つに両側に窓のある部屋があり、夏の涼しく湿度も最適なパルマの風にハムを晒すという。

 

「パルマの風」に当てる工程。電動で開く窓から最適な条件の風がハムの間を通り抜ける。

熟成室に足を踏み入れると、あの芳醇な香りに包まれた。そこでマルチェロさんが取り出したのは小さな指揮棒のようなステッキ。馬の骨でできたそれを熟成中の肉に刺して匂いを嗅ぐことで熟成の進行具合をチェックするという。嗅がせてもらうと確かに、熟成の進行具合や肉の部位により香りが違う!その後も厳しいチェックを経て、パルマハム品質協会(IPQ)の検査員が確認し、晴れて「プロシュット・ディ・パルマ」として名誉ある王冠のマークを焼印される。

 

馬のスネの骨でできたスティックで香りを嗅ぎ熟成具合を確かめる。馬の骨には微細な小孔があり、すばやく匂いをキャッチし発散するという。

 

最後に大腿骨を抜いたら縄できつく縛り上げて整形する。ソフトプレスと言われるこの工程も柔らかなハム作りに重要。

 

仕上げの焼印作業。

 

パッケージされた生ハム。

 

生ハム工房「CLAI」

生ハムの聖地、パルマの生ハム工房。最新の設備環境を駆使しながらも、工房の窓を開け、パルマの風を当てて乾燥/熟成させるなど、人の手とパルマの気候風土が欠かせない。日本で食べられるのはクオルス・リストランテのみ。

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