2020.09.09| 情熱のイタリアコラム

No.14 元祖テイクアウト!? エミリア地方のソウルフード「ティジェッレ」登場!

この秋クオルスより、“エミリア地方”名物のパン料理「Tigelle (ティジェッレ)」が、本格的に登場します!小さな円盤形のパンに、伝統的なペーストや地元特産のハム・チーズ類をはじめ甘いものまで、お好みのイタリア食材を挟んで楽しみますが、パン自体が主役というよりは、あくまで“パンと美味なる具材が一体”となった、ひとつの郷土料理です。

エミリア地方とは、イタリアのエミリア・ロマーニャ州の北西部に広がる地域を指し、もう一方のロマーニャ地方に対して、面積・人口ともに州のおよそ4分の3を占めています。州都のボローニャ、そしてティジェッレ発祥地である“モデナ県のアペニン山岳地域”は、このエミリア地方に属しています。

実は “エミリア”と強調するのは、ロマーニャ側にも彼らのソウルフードである「Piadina Romagnola(ピアディーナ・ロマニョーラ)」という、これまた伝統あるパン(原材料はほぼ同じ・ピタパンの様に薄くてサイズは大)があるからで、地元でそれぞれのことを「“エミリア・ロマーニャ州”の名物」とひとくくりに言おうものなら、反撃にあうこと必至です(笑)。

「ティジェッレはエミリア、ピアディーナはロマーニャ」。これがお約束!

ところでこのティジェッレ、実はパンの名前ではなくて元来このパンを作るために使われていた“石焼きプレート(石版)”の名前なのです。それは小さな円盤形をした耐火性のテラコッタで、その表面にはパンに焼印するデザインとして代表的な花模様(“繁栄”のシンボル)をはじめ、様々なレリーフ(浅浮彫り)が施されていました。

その石版こそが、ラテン語に由来する「Tigella(ティジェッラ)」。昔はこれを暖炉の炎で熱した後、生地を間に挟んで積み上げていく形でパンを焼きました。この方法だと生地を発酵させなくとも、パンがふっくらと出来上がったそうです。現代で言う“遠赤外線効果”ですが、先人達は経験に基づく知恵からパンを美味しく焼き上げる方法を、ちゃんと実践していたのですね。

ちなみに、今日では「Tigelliera(ティジェッリエラ)」と呼ばれるアルミ製の“専用の焼き器”を利用しますが、これによりパンの表面は香ばしくサクサク、中はふんわりと焼き上がります。またティジェッレのシンボルでもある焼印は内側の型押し加工により再現でき、古来の伝統もしっかり受け継がれています。

では、本来のパンの名前は?と言うと、それは「Crescentina (クレシェンティーナ)」と言います。“生地が“膨らむ”という意味から来ているのですが、実はこの名前がややこしい!ボローニャでは、このクレシェンティーナは別の形態の揚げパンを指し、その揚げパンのことはモデナやレッジョ・エミリアではニョッコ・フリット、パルマではトルタ・フリッタと呼び名が変わります。

そんなこともあり、混乱を避ける経緯から“モデナのクレシェンティーナ”のことを、「Tigella(ティジェッラ)」と呼び始めるようになったのでは?とも言われています。またパンの総称や料理名(メニュー)としては複数形「Tigelle(ティジェッレ)」が使われています。本来の名前が間違った形で通用していることに、パン発祥地周辺の人々からは多少の不興を買っているとも聞きますが、今や一般的にはこの呼び名ですっかり認知されています。

さてこのティジェッレ、その小さく薄い形状から保存食としても優れていた(石版に挟んで温め直して食べられた)のはもちろん、携帯するにも大変便利でした。山岳での過酷な労働を支える食糧として、地元特産の豚の背脂(ラルド)で作ったペーストは大変貴重なエネルギー源だったのですが、それをティジェッレに挟んでいくつも持って山仕事に出かけたそうです。

脂っぽい食材を携帯するのに、それをうまく包んでくれ、そのまま手で食べられるティジェッレはとても実用的。元々生地が薄い上に、挟んだ具材から出る油脂がうまく馴染んでくれる為、山の寒い環境の元でもパンが固くならずいつまでも美味しく食べられたそう。まさに理想的な“テイクアウト・フード“でもあったのです。

そんなティジェッレの“DNA”は、時代に即した形で今日にも引き継がれています。近年イタリア各地で開催されている“ストリート・フード祭り”でも、ティジェッレのフード・トラックを見かけるようになりました。ティジェッレを片手に、頬張りながら歩く人々。「伝統の味はそのままに、カジュアルなスタイルで!」。これがトレンドの様で、今やすっかり“おしゃれな食べ歩きフード”の仲間入りを果たしています。

さらに昨今の量より内容という“ヘルシー志向”にも、ティジェッレならぴったり。1枚が小さく薄いティジェッレなら、具材に対してのパン部分も少な目。複数枚のセットなら、それぞれに挟む具材が変わるので、「ちょっとずついろいろな美味しいものを食べたい!」という願いも叶えてくれます。最後の1枚には甘いものを挟んで “シメ”に出来るのも嬉しい。「気分はまるでフルコース!」とは言いすぎでしょうか(笑)。

アペリティーボのお供に1枚。食事として3~4種(もちろんワインも一緒に)。テイクアウトにも最適で、おしゃれに食べ歩きもできる!と同時に、厳しいアペニン山岳地の生活を支え続けてきた知恵あるパンと、美食の土地でも知られるエミリア地方の特産品のコンビが織りなす味わいは、ソウルフードにふさわしい飽きのこない美味しさ!是非、様々なシーンでお楽しみください!

そして最後に。。。ティジェッレを頬張る前には、焼印にもちょっと注目してみて!シンボルを施したこのパンのルーツに思いを寄せた時、「伝統」という魔法のスパイスが効いて、(“食べ物への感謝”とでも言うような)さらなる味わいを与えてくれるかもしれません。それとも、そのシンボルの奥に、貴方だけの美しいエミリアの山の風景が見えてくるかも!?しれませんよ(笑)。

 

 

 

クオルス・イタリア駐在員/小関智子 Tomoko Koseki

クオルス・イタリア駐在員/小関智子 Tomoko Koseki

エミリア・ロマーニャ州在住。AIS(イタリアソムリエ協会)のソムリエの資格と公認添乗員ライセンスを持つ。現地で出会ったワイナリーとクオルスを繋いでいる。

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