2019.04.27| "文系ソムリエ"が教えるワインの楽しみ方

No.6 キーン先生と バローロ

去る二月、私の敬愛するドナルド・キーン先生が九十六歳で天国へと旅立たれました。養子のキーン誠己さんが綴られていたブログを通して、先生のお仕事や生活ぶりを楽しく拝見していましたが、とりわけ興味を引いたのは、とにかく先生の食卓にはいつも〝一杯のワイン〟があったことです。それはレストラン等の特別な場面ばかりでなく、ご自宅での日々の食卓も然りで、乾杯のポーズをとる先生のお茶目な笑顔も大好きでした。

これほどのご長寿を保ちつつ、最晩年まで美味しそうにワインを嗜んでいらっしゃるそのお姿は、「お見事!」と言うしかなく、私はいつも感服と羨望のまなざしで拝見しておりました。「あぁ、私もワインとずっとこういうお付き合いをしていきたいな」と、そこに人生における〝理想的なワインとの付き合い方〟を見出して、是非あやかりたいとも思っていました。また先生は一体どんなワインがお好みなのだろうと、ボトルが写り込んでいる画像からラベルを読もうと試みたりもしましたが(笑)、残念ながら成功はせず、気になったままでした。

ところが、訃報に触れた後、すっかり寂しくなっていた私に思わぬサプライズが!続きがあるとも思わず何気なくブログを再訪したところ、目に飛び込んできたのは、お通夜の祭壇に掲げられた優しい笑顔の遺影と一杯のワインの写真。そして「赤ワインは、好んで飲んだバローロでした」という誠己さんのお言葉。「あっ、バローロ!!」と思わず叫んでしまいました。先生がお好きだったワインはイタリアワイン、しかも私も大好きなバローロだったのです!

その瞬間、なぜか寂しさが癒され、心温まる思いがしました。それはこの素敵なサプライズ(謎解き)が、あたかもずっとブログの追っかけをしてきた私への、先生からのユーモラスな贈り物であるかのように思われ、と同時に、これから先、バローロを飲む時にはいつでも先生とそこでお会いできる、という安堵にも似た不思議な気持ちに包まれたからです。 これで バローロは、私にとってさらに大切なワインになり、ますます飲む機会が楽しみになりました。キーン先生にあらゆる感謝を込めて乾杯!!

 

〈この記事は2019年4月27日発行「LaPassione! 7号」の内容を掲載しています〉

ソムリエ・小関 智子 Tomoko Koseki

ソムリエ・小関 智子 Tomoko Koseki

クオルス・イタリア駐在員。エミリア・ロマーニャ州在住でAIS(イタリアソムリエ協会)のソムリエの資格を持つ。猫とワインとサムライをこよなく愛する。

SHARE THIS ARTICLE

 記事一覧へもどる