2019.03.01| 情熱のイタリアコラム

No.5 「木樽」ってすごい!

私がソムリエ講座で学んだことの中で、ワインの世界の奥深さをつくづく実感した要素のひとつが、〝木樽〟という存在とその役割です。もともとは液体などの貯蔵容器として生まれ、古代ローマのカエサル(シーザー)の時代には、それまで使われていたアンフォラという陶器に取って代わり、その利便性からワインの運搬容器として使われ始め、その後二千年に渡る長い歴史と育まれた経験の中で、〝神秘的な熟成を実現する手段〟に発展し、現在に至っています。ちなみに代表格の「バリック」という225ℓのオーク樽のことは、皆さんにもすっかりおなじみだと思います。

 

ワイン熟成用の木樽(テヌータ・ウッチェリーナ)

とにかく木樽というものが備えている唯一無二の特性や効能、木という素材だけが実現し得る熟成の不思議さには、ほとほと感嘆してしまったのですが、その木樽への想いは、奇跡の液体とも称される「伝統的バルサミコ酢」の製法を知るに至って頂点に達しました。今風の言葉で言えば、木樽ってマジすごすぎ!!(笑)

 

伝統的バルサミコ酢の木樽。最低5つの組み合わせ(バッテリーア)で構成される

伝統的バルサミコ酢の製法の詳細は「カゼッリ社の伝統的バルサミコ酢ができるまで」に譲りますが、「バッテリーア(Batteria)」と呼ばれる最低5つ以上の樽で構成されたひと揃えの樽の中で育まれ、それぞれの樽材のエキスや香り成分を長い時間をかけてゆっくりと取り込みながら熟成し、あの類なき芳醇で艶やかな暗褐色の液体になるのです。反対に、何十年もかけて自身のエキスを提供した樽は、出がらし状態になってしまうとのことで、まさに〝身を削って〟の大仕事!樽材そのものがバルサミコ酢の原料の一つと言っても過言ではないでしょう。そしてそれはバルサミコという名前自体が「バルサムの木の芳香」に由来していることが物語っています。

ワインとバルサミコ酢。製造過程における木樽の役割には違いがありますが、どちらも木の恩恵を一身に受け、樽材のエキスをじっくり吸い上げ、自身が豊かに成長していくところは共通しています。ワインにとっての木樽が、替えのきかない〝無二のパートナー〟なら、バルサミコ酢に至っては〝母と子〟のような関係と言えるのではないでしょうか。いずれにしても、切っても切れない運命的な間柄であることは間違いありません。木樽万歳!!

 

〈この記事は2019年3月1日発行「LaPassione! 6号」の内容を掲載しています〉

クオルス・イタリア駐在員/小関智子 Tomoko Koseki

クオルス・イタリア駐在員/小関智子 Tomoko Koseki

エミリア・ロマーニャ州在住。AIS(イタリアソムリエ協会)のソムリエの資格と公認添乗員ライセンスを持つ。現地で出会ったワイナリーとクオルスを繋いでいる。

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