2020.07.15| イタリアの食とワインの味わい方

No.12 創業130周年!ヴェネチアのトラットリア 番外編 ~トラットリアの風景②~

 

6月に入り、イタリア国内の移動制限の解除があってすぐ、ヴェネチアに行ってきました。お目当ては二つ。ロックダウンの間に、魚やクラゲが泳ぐ姿が見られるほど澄んだ水になったと聞いた運河を、この目で確かめること。そして、しばらくご無沙汰となってしまった、お気に入りのお店の様子を見に行くこと。

ヴェネチアには奇しくも、開催中のカーニバルが突然打ち切りとなった前日の2月22日、その日を境にその後の状況が一変することになろうとも知らずに、訪れていました。

あの日から、約100日。水の都ヴェネチアは何か変わっているのだろうか。

 

サンタ・ルチア駅を出ると、いつもと変わらない景色が目に飛び込んできました。「カナル・グランデ(大運河)」の水面はキラキラしていて、何度訪れてもワクワクする瞬間ですが、明らかに違っていたのはその人通りが少ないこと!常に観光客であふれていた駅前のヴァポレット(水上バス)乗り場付近もかつてない程に人がまばらです。

サン・マルコ広場までの道すがら、いくつも通る太鼓橋から水路を覗いてみると、確かにいつもに比べてその緑がかった色の水は澄んでいて、光が差して水面から数十センチ程の深さまで見えるリオ(小さな運河)もありました。何度となく来ているヴェネチアですが、やはり今までで一番キレイ!さすがに泳ぐ魚には出くわしませんでしたが。

これが本来海から流入してくる水の色なのだと、この目で確認できて嬉しくもあると同時に、またどっと観光客が戻ってくるにつれ、再び観ることは出来ない光景なのだろうという複雑な思いも。でもこの水の都は、いつの時代にも様々な環境の影響を受け、その水面の色合いを変化させてきたのだろうと、ひとつの歴史の証人にでもなった気分で、感慨深いものがありました。

 

そしてもう一つの目的、“お気に入りのお店”はと言うと……無事開いていました!(笑)。そのお店は「TRATTORIA CA’ D’ORO “ALLA VEDOVA”(トラットリア カ・ドーロ “アッラ・ヴェドヴァ”」。それだけで通じる“アッラ・ヴェドヴァ”という屋号は“未亡人の店”の意。方言で“バーカロ”と呼ばれるヴェネチア伝統の立ち飲みスタイルのいわゆる“一杯飲み屋”の名店で、トラットリアを兼ねており、入り口脇にはヴェネト州が認定した“歴史あるお店”のみに与えられる称号「Locale Storico」のプレートが渋く光っています。

創業は1891年。来年には130周年を迎える、まさに老舗です。

 

ランチ時であってもすぐにいっぱいになる人気店なので、そのつもりで早めに行ったのですが、今回はなんと私が一番乗り!いつもだったらお昼前から賑わっているバーカウンターにもお客さんはいません。なんだか心配になってきました。。。それでも“チケッティ”と呼ばれる“おつまみ”のお惣菜の数々は、いつもどおりにずらりと並べられています。

「調子はどう?」と、顔馴染みのカメリエーレ君をつかまえて、さりげなく声をかけてみました。ただ “目は口ほどにものを言う”の実践とばかりに、まなざしには私なりの万感の思いを込めて。ところが彼は、私に視線を返しながら「悪くないね!」とあっさり一言。それはこの3か月半まるで何もなかったかのようなトーンで。しかもマスク越しでも分かる笑顔はいたってさわやか。えっ!?苦労話のひとつも聞くつもりで構えていた私は、思わず拍子抜け。「あ、ははは、それなら良かった!!」。

考えてみれば、そんな“肝っ玉”ぶりも、もっともかもしれません。創業以来、第一次・二次世界大戦を経て、スペイン風邪等の疫病や度々のアックア・アルタ(高潮)による被害をも乗り越えてきたお店なのです。毎回それらの困難から立ち上がって、こんな風に前向きに営業し続けて今があるのだろうなと思った時、「あっ、さっきの運河の水と同じだ!」と気づきました。“どんな状況も受け入れて、それでも流れ続けて行く”。それこそが歴史を積み上げていくということなのだと、あらためて感じたのです。

 

そんな思いを巡らせていた時、「ほら、ポルペッタだよ!」と、注文していたこの店自慢のチケッティのひとつが運ばれてきました。ワインのお供として大人気のまん丸の“揚げミートボール”です。あぁ、やっぱり美味しい!ハフハフと頬張っているうちに、地元のお客さんが一人、そしてまた一組と入って来るのが見え、前菜や大好きなイカ墨パスタが運ばれて来る頃には、まわりのテーブルはいつのまにか埋まっていました。

こうやってこのお店は、様々な時代の波をくぐりながら、まだまだ歴史を重ね続けていくことでしょう。片や私は、変わらぬおもてなしと美味しい料理、また戻って来られた嬉しさに思わずワインもすすんでしまい、ほろ酔いに任せて「“オンブラ”(ワイン)をもう一杯!」と、一度使ってみたかったヴェネチア方言を気取って、更に杯を重ね続けていったのでした!(笑)

 

クオルス・イタリア駐在員/小関智子 Tomoko Koseki

クオルス・イタリア駐在員/小関智子 Tomoko Koseki

エミリア・ロマーニャ州在住。AIS(イタリアソムリエ協会)のソムリエの資格と公認添乗員ライセンスを持つ。現地で出会ったワイナリーとクオルスを繋いでいる。

SHARE THIS ARTICLE

 記事一覧へもどる