2020.12.17| 情熱のイタリアコラム

No.17 シチリアから“生命の雫”がやって来る!~Olio EVOの世界へようこそ③~

前回はイタリアに優に500以上はあるというCULTIVAR(オリーブ品種)について、少しご紹介させていただきました。そして今回の主役はというと、シチリアのレアな品種「Brandofino(ブランドフィーノ)」。この単一品種から作られたOlio EVOがクオルスにやってきます!作り手はエトナ山麓で、ワイナリー&オリーブ農家を営むフィリッポ・グラッソ。もちろん「スクアドラ・クオルス」の一員、2013年から続くお付き合いです。

例年通り、秋のブドウの収穫とカンティーナでのワイン仕込みの作業が一段落するやいなや、今度はオリーブの収穫と搾油で大忙しの季節が続きます。11月というのに空の色はシチリアらしい美しい“アッズーロ”(青色)。この青空の元、4代目の現オーナーFilippo(フィリッポ)と父のFernando(フェルナンド)が、“手摘み”での収穫作業を丁寧に行っていきます。手摘みは収穫方法としては最良。オリーブの実ひとつひとつの状態の見極めが可能な上に、作業中に実を傷つけることなく、より完全な状態で搾油できるからです。

ワイン造りはすっかり任されているフィリッポも、ことオリーブに関しては未だ父を超えられないとのこと。自家所有の約100本のオリーブの大半は“Ultrasecolari(ウルトラセーコリ)”と呼ばれる世紀越えの樹々。つまり100年以上、中でも一番古いものは約300年の樹齢を持つそうで、一緒に収穫をしながら様々な教えを受けています。父から子へと代々受け継いがれていくオリーブへの思いと職人技。フィリッポは父フェルナンドについてこう語ります。

「彼は、1本1本のオリーブの特徴を全部把握しているんだ。年毎に実をつけやすいもの、その逆もしかり。寒さに弱いものなどが分かっているから、それぞれの樹に対して適切なケアが出来る。もちろん剪定も自らが率先して行う。今年82歳になるんだけどね。彼のオリーブに対する愛情はそれこそ半端じゃない。まるでオリーブたちも自分の家族の一員の様に愛情を込めて向き合い、そして世話をしている。そんなパパのこと、僕ら家族はとても誇りに思っているよ」。

さて、そんな風に家族の一員として扱われているオリーブたち。こちらが、その「ブランドフィーノ」。シチリア東部のエトナ山腹で栽培されている土着品種です。このオリーブの実、シチリアでは希少な品種。なぜなら海抜600メートル以上の地域でないと実をつけないという特徴があるからです。別名「ランダッツェーゼ」とも言いますが、これはRandazzo(ランダッツォ)というフィリッポ・グラッソも所在するエトナ山腹に位置する町(海抜735メートル)の名前に因るもので、その地域特産の品種であることを意味しています。

このオリーブの収穫は、実が成長してようやく色づきかけるかどうか、というタイミングで行われます。ブランドフィーノは比較的熟成が遅いタイプ。11月に入ってもほとんどの実が緑色のままですが、この段階で搾油することにより、ポリフェノールなどの有効成分を十分に抽出することができるのです。ちなみにOlio EVOの特徴でもある「AMARO=苦み」「PICCANTE=辛み」は、このポリフェノールに由来。これらが、“マイルド”や“スパイシー”などその程度に違いがあるにしても、しっかりと感じられることが高品質オイルの証明にもなります。

そして収穫後は、直ちに敷地内の小さなフラントーイオ(搾油所)へ。実を摘んでからできるだけ短時間で搾油することは品質を左右する重要な要素ですが、家族経営の小さな規模ならではのメリットがここでも活かされています。フィリッポ・グラッソでは、収穫後2~4時間以内の搾油を実現させており、その品質の高さは数値的にも明らかで、彼らのOlio EVOの酸度は「0.2度」。前回のコラムの内容を踏襲するならば、まさに「超極上オリーブオイル」のカテゴリー!(笑)

さらに採油の最終段階「ろ過」の工程では、こだわりの“デカンテーション”方式を採用。つまりフィルターにはかけずに、オイルの中に残っている細かな果肉など微小固形物を沈殿させ、それを取り除くことを繰り返すことで、液体をクリアーに仕上げています。フィルターにかける方が時間も大幅に短縮できるのですが、敢えてこうするのは「これまで通り我々の規模に合う方法で、出来るだけ自然にやりたい。それに、この方がブランドフィーノの風味がより残ると思っているので」という理由からだそう。

とは言え、そのデカンテーションの間も、温度調整付きステンレスタンクの中で保存し、品質の維持について抜かりはありません。そうやって手間を惜しまずに家族で作り上げる「Olio Extravergine Monovarietale Brandofino (ブランドフィーノ単一品種)」は、今現在デカンティング中で、クオルス専用にボトリングする日を待っています。このオイルは元より生産量自体も少ないため、一般の市場には出ていません。今年も自家用と地元客用を確保した後は、すべて日本のクオルスへ直送してくれることになっています。他では決して手に入らない、味わえないオイルなのです。

そんなオイルの生みの親パパ・フェルナンドの若々しさに、ついその元気の秘訣を聞いてみたところ、このオイルの真髄に触れるような答えが返ってきました。「私もあやかりたい!」と思わず感動してしまった彼の言葉をご紹介して、今回の締めくくりとさせていただきます。皆さんも是非このオイルを味わいに来て、彼の様にシチリアの大地と歴史に培われたオリーブのパワーから元気をもらってくださいね!

「私がすごく若いって?それは嬉しいね!まあウチのオリーブたちに比べたらまだまだ子供のようなものだからね。私が元気なのは、やっぱりこのオリーブオイルのおかげだろうね。彼らの生命力ときたら本当にすごいものさ。ウチでも“ウルトラセーコリ”のオリーブの樹は干ばつで収穫が厳しい年でも、他の若い樹よりもちゃんと実をつけてくれるんだ。なぜって?それだけ土の中に深く根を張っているから、そこからしっかりと栄養を吸い上げることが出来るからだよ。古くなるほど実をつけて我々を助けてくれる、こんな樹が他にあるかい?我々はそんなオリーブがもたらしてくれる、まさに“生命の雫(いのちのしずく)”をいただいているんだよ」。

クオルス・イタリア駐在員/小関智子 Tomoko Koseki

クオルス・イタリア駐在員/小関智子 Tomoko Koseki

エミリア・ロマーニャ州在住。AIS(イタリアソムリエ協会)のソムリエの資格と公認添乗員ライセンスを持つ。現地で出会ったワイナリーとクオルスを繋いでいる。

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