2021.07.07| cibo 食材に誘われて

|cibo 09|シチリア生まれの王冠トマト/上越市大潟区 竹田さんのシシリアンルージュ

シチリア生まれの王冠トマト
上越市大潟区 竹田さんのシシリアンルージュ

小さくて細長い真紅のトマト。ヘタの先がくるんと跳ね上がって王冠のよう。食べれば、みずみずしく濃くて、旬のトマトにしかない独特の匂いが鼻に抜ける。イタリアはシチリア生まれ、その名もシシリアンルージュ。クオルス・リストランテがパスタやピッツァ、魚料理のソースやサラダに使っているこの「シチリアの赤」を、上越市大潟区に訪ねた。

ハウスの中に入ると、赤く小さな実が、鈴のようになっている。仲良く集まって釣り下がる様子が何とも愛らしい。クオルス・リストランテが、「大潟ナショナルカントリー」にシシリアンルージュをお願いしたのは8年ほど前のこと。前代表の竹田香苗さんに、高波利幸社長が「突撃」直談判したのが始まりだった。「イタリアには何百種類のトマトがあるけれど、これはものすごく味が濃い。加熱用だけれど生食もいける。イタリア料理に使うならこれだと思った」。「やってみるよ」。竹田前代表は乗ってくれた。そして定番の大玉のミソラ、ミディトマトに加えて栽培。年々、増やしてくれた。

「病気が入りやすいんです。でも、真夏に土壌を太陽光で消毒したり、接ぎ木の種類を工夫したりして、青枯(あおがれ)病にさえ気をつければしっかり育ちます」。2年前に亡くなった夫から、シシリアンルージュを継いだ竹田直子さんは話した。「かわいいです。赤くなってくると、それだけでうれしい」とは、一緒に担当する石野杏奈さん。「見た目がいいからね、いいわね」と直子さんは、にこやかにうなづいた。

旬は6月からお盆くらいまでと、決して長くはないが、「どれだけあってもいい」とクオルス・リストランテは過去最大で1200キロ仕入れた。ソースやサラダに使う以外は、天日干しにして、その後オイル漬けにし、一年分を保存している。「干すと味が濃くなるし、火を入れると粘り気が出て、パスタやピッツァ生地にも絡みやすくなる」。一般的なトマトに比べてリコピン酸は7倍、うまみは3倍と言われるトマトの持ち味を存分に引き出し、本場イタリアの味を店で提供するというわけだ。

高波社長の中には、ある風景がある。シチリア島エトナ火山の麓で、縦半分にカットされ、強烈な南の太陽を浴びていたシシリアンルージュ(現地名:ダッテリーノ種)。クオルス・リストランテの一皿にも、トマトを育んだ太陽と光、そこに吹いている乾いた風も少し、まぶされている。

上越大潟区 大潟ナショナルカントリー 竹田直子さん

新潟県新発田生まれ。夫が1980年に立ち上げた「大潟ナショナルカントリー」を当初から支える。同法人では米8品種のほか、枝豆、トマト、ブロッコリーなどを栽培。ミソラなどのトマトは、地元スーパーの品を一手に引き受ける。

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