2025.01.31| PASSIONE “情熱”

‘025 有言絶対実行

1993年創業。100年続くイタリア料理店を目ざして、新潟、都内、イタリアへと道を開いてきたクオルス・リストランテ。現在、レストランのほかに、伝統的バルサミコ酢樽をモデナに所有し、都内にモッツアレラチーズ工房、上越にクラフトビール醸造所を展開。イタリア食文化に感銘を受けたことで始まった挑戦は、これからも続く。

有言絶対実行

キャストは全部社員で、アルバイト、パートはゼロです。調理師学校から面接に来て、内定したらバイトに来てもらい、春まで研修を兼ねて働いてもらいます。採用条件は、イタリア料理とイタリアが好きということ。お金を稼ぐためだけに働くという人にはお願いできません。今いる人は、それぞれ個性が違ってバラバラです。私は、この人たちをどう活かしてあげようかと、いつも考えています。

一人一人の個性をどう組み合わせるかによって、いいチームになるかどうかが決まります。トライアルとして、店舗間の異動を頻繁に行います。誰をどこにはめるかというのは、経営者である私の仕事です。その情報を肌で感じるために、年に何回かは、グループ店のレストランにも出ます。一緒に仕事をすると、いろいろなことを感じます。料理も作りますし、接客もして、場面場面でいろいろなシーンを見て、「あ、この人はこういうことができるんじゃないか」というのを見つけると、「今度、南青山おいでよ。客層が全然違うし、君はお客さまとお話しするのがすごく上手だったから、セレブの人を相手にそういうことをやってみなよ」と提案します。私は基本的には命令するより「やってみなよ」と言う方が好きです。人間が丸くなったんでしょう。

正直、昔は頭ごなしの命令もありましたが、適性適職、適材適所という言葉があるように、一人一人に対してそれを見出すことを大切にしています。うまくいっていない現場については、徹底的に話を聞きます。なぜそうなるかを知るためです。私が現場に入ると、店主が後から「どうでしたか」と聞いてきます。そこでまず文章にまとめ、読んでもらってから感想を聞きます。

「どうでしたか?」
「いや、おっしゃる通りです」
「じゃ、それについて話そうよ」

出かけていって、話します。昔は思ったらすぐにやってしまうタイプでしたが、今は少し時間をおいてから文章を渡します。思ったことをすぐ言葉にするのは、いい時もありますが、良くない時もありましたから。

文章にするのは面倒だと思われるかもしれませんが、フォーマットがあるのでそれほど大変ではありません。最初に点数をつけますが、目標点に対して、だいたいは半分くらいです。次に理由を書きます。ただし、店同士を競わせるようなことはありません。条件が違いますし、地域性も違うからです。

各店舗について、売上げ目標に届いたかどうかは精査しています。届かなかった場合は原因を探り、追究します。昔はレストランの責任者に目標の数字を出させていましたが、往々にして根拠のない非現実の数値になりがちでした。すると部下や後輩が「こんなの無理だよ」と言い出します。できない目標を立てたら、誰もやる気になりません。そこで最近は、私が目標を立てています。この店ならこのくらいのポテンシャルがある、あのキャストたちならこのくらいできるだろうと。基本的には前年比105%から110%というところです。目標を達成した場合は、3月が決算なので決算賞与を出します。店ごとではなくてグループ全体で、です。

採用に関しては中途を多く採用した時期もあったのですが、なかなかまとめづらいのでこれからは新卒中心でいきたいと考えています。新卒は、他を知らないことがデメリットになる時もありますが、まっさらなので染めやすく、基本的にはうちの文化にスッと入ってこられます。なまじ、よそを知っていると「あそこはこうなのに、どうしてうちはこうなんだ」ということになり、実際、過去にはそうやって現場を掻き回す人もいました。その挙げ句、めぼしい部下を連れて行ってしまったりするのです。

今いるキャストの3分の1強が新卒入社ですが、これからさらに比率を高めていきたいと考えています。また、今までは調理師学校からだけの採用でしたが、今後は大卒も視野に入れていきます。近年は、弁護士になろうと思っていた学生が、うちに「入りたい」と言ってきたりして、「本当にいいの?」と確かめたことがあります。

手前味噌な話ですが、私は純粋無垢な男です。新潟県の旧東頚城郡安塚町大字二本木で生まれて、上越市で青春を過ごし、東京に出ました。その頃は、「田舎者じゃない」と、都会人に憧れていました。

今思うのは、自分の生い立ちに対する誇りです。ここには、それを記すとともに、これからのビジョンを書き添えました。ビジョンを実現させるためのキーワードは〝有言絶対実行〟です。

自分がやりたいと思っていることを言葉にするのは、とても大切なことです。「こうなりたい」「そうしたい」という思いは、周囲からいろいろなアドバイスを受けます。「無理でしょ」「駄目でしょ」をネガティブにとらえる時もありますが、常にポジティブに「できるかも」「誰もやったことがないのなら」「チャンスかも」と。夢を形にする〝有言絶対実行〟という言葉を胸に、努力していきたいと思います。

 

高波利幸 Toshiyuki Takanami

1968年、新潟県上越市生まれ。高校卒業後「服部栄養専門学校」に入学し、料理の勉強を開始する。在学中、ヨーロッパに研修でイタリアへ行き、イタリアの食と文化、そして人に大きく感銘を受ける。卒業後、イタリアレストランで修行を開始。7年間東京で暮らしたのち、新潟に帰郷。1993年4月、地元上越市にイタリアレストランをオープン。現在イタリア料理店3店舗、モッツアレラチーズ工房、クラフトビール醸造所を展開。その他飲食店コンサルティング、プロデュースも手掛ける。

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