シチリアの自然、大地、人。大きな恵みとともに暮らす
クオルス・リストランテが使っているオリーブオイルは、シチリア東部にあるヨーロッパ最大の活火山、エトナ山のふもとで造られている。一つ一つ手で摘んだオリーブを、伝統的な製法でオイルにしているグラッソ家を訪ね、オリーブオイルのある暮らしを追った。
「畑にあるオリーブの木はちょうど100本。古い木は300歳になるみたい」。マリアリータは愛犬、ラファエロを従え、坂道を歩きながら言った。グラッソ家は何代も前から、オリーブオイルを作ってきたという。ただし、それは自分たち家族や友達のためで、ここにクオルス・リストランテが加わったのは5年前のことだ。
「ブドウ畑を囲むように立っているでしょう?ここは谷間で風が強いから、大きなオリーブの木でデリケートなブドウの木を守ってもらっているの」。フィリッポ家ではブドウの収穫とワイン造りが一段落した10月、オリーブの実が艶やかにパンパンになると収穫を始める。採ったらすぐ、自宅の下にある工場へ運び、ペーストにしたオリーブの実を円形のマットに広げて圧搾。伝統的な製法を守り、摘むのもすべて手作業という。「いいオイルを作るには収穫したらなるべく早く搾油することが大事」。オリーブオイルは酸化しやすく、光や熱でも劣化するほど繊細。スピードももちろん、搾油の間も温度管理は欠かせないという。
「毎日の食事はオリーブオイルなしでは考えられない。サラダやパスタはもちろんケーキやビスケットを作るときもバターの代わりに使ってる」。マリアリータが用意してくれたランチも、オリーブオイルがいっぱいだった。
グレートエクスチェンジ大きな輪の中にある恵まれた暮らし
フェンネルのスパニッシュオムレツ、ピスタチオのペーストとトマトのパスタ。ペコリーノチーズにサラミ。そこに「ペコリーノにすごく合うよ」と、畑でパパ、フェルナンドが採ってくれたそら豆。「さやをむいてそのまま食べて」とマリアータ。「生のまま?」。初めての経験に少し戸惑ったが、食べてみて、大いに納得。少しクセのあるヤギのチーズ、ペコリーノに、みずみずしくも青臭いそら豆がよく合うのだ。
「野菜やハーブは畑で採れたもので、チーズとサラミは友人が作ってるもの。うちの畑の草をヤギに提供する代わりにもらったり、兄フィリッポの作るワインやオリーブオイルと交換したり」。パン(5)は週に一度、フェルナンドが作る。「この地域では、ずっと前からこうして暮らしてきた」。お互いに必要なものを交換して成り立つ、自給自足に近い生活。マリアリータは「グレートエクスチェンジ(大きな交換)」と言った。そこには人と人だけでなく、この土地の太陽や風、土など、自然と環境のすべてが関わり合っているのだろう。
「素敵な暮らしだと思うし、私たちは恵まれていると思う」、そう軽やかに言うマリアリータ。フィリッポグラッソのオリーブオイルを料理にひと回しすれば、一滴一滴から、シチリアの大地の恵み、グラッソ家の自然とともにある暮らしがふわり、香り立つ。