モデナの伝統的バルサミコ酢を知る5つのこと
モデナの伝統的バルサミコ酢には、熟成に最低12年以上もかける独特の製造方法とその高価さから、
単に調味料としてだけでは無い、様々な歴史と価値が詰まっています。
1.「バルサミコ酢」と「エステ家」との関係
「伝統的バルサミコ酢」は現在、イタリア北部エミリア=ロマーニャ州のモデナ県とレッジョエミリア県のみで作られている。ここは13世紀から500年以上、貴族エステ家の領地で、彼らの誇りでもあったバルサミコ酢は、他人に知られないよう大切に保管されてきた。秘密の扉が開かれたのは19世紀の初め。経済状況の悪化したエステ公とオーストリア帝国の貿易がきっかけだった。
2.「伝統的バルサミコ酢」と名乗るには?
伝統製法を用い、少なくとも12年または25年以上の熟成期間を経て、専門の試飲鑑定士の検査に合格したものだけが名乗れる。不合格となった場合は樽に戻し、さらに数年間熟成させるという。ここまで徹底するのは、モデナの人々が伝統製法を尊重し、継続させる努力を続けているから。そこには、伝統的バルサミコ酢に対する誇りと深い愛情がある。
3.貴族の若い娘にとって最高の「嫁入り道具」
1滴の価値が他のどの食品よりも高価だとされる伝統的バルサミコ酢。この“高貴な酢”は、昔から常に貴族の間で珍重されてきた。国王への献上品や、財産の目録や遺言状にも記載されるほど。そして貴族階級の花嫁にとって最高の「嫁入り道具」でもあった。貴重な「伝統的バルサミコ酢」を持って嫁ぐことは、花嫁にとって完全に相手家族の一員となる意志の象徴でもあったのです。
4.女性が守り、受け継いできた「母なる樽」の存在
もともとバルサミコ酢は女性によって作られていた。大事な種酢(ブドウ果汁を煮詰めたモスト・コットを「母なる樽」で発酵させたもの)を半分程度、母が娘へと譲り渡し、娘はそれを元に新たな「母なる樽」で種酢を作り、バルサミコ酢を作る。今日、私たちが伝統的バルサミコ酢を味わうことができるのは、偉大な「母なる樽」と女性たちのおかげなのだ。
5.「酢」は万能薬だった
古代から伝染病対策にも使われてきた「酢」は、14世紀には全ヨーロッパを襲ったペストの治療薬になったという。19世紀になると今度は、コルセットできつく締め付けられた女性の気付け薬に。「伝統的バルサミコ酢」も貴族たちの万能薬として使われていたそうで、現在でもモデナの多くの人々は、常備薬として「酢」を持ち歩く習慣があるという。
参考文献:レオナルド・ジャコバッツィ、大隈 裕子 「バルサミコ酢のすべて」 中央公論新社(2009)