‘023 描き続けるビジョン、夢をかなえる言葉
1993年創業。100年続くイタリア料理店を目ざして、新潟、都内、イタリアへと道を開いてきたクオルス・リストランテ。現在、レストランのほかに、伝統的バルサミコ酢樽をモデナに所有し、都内にモッツアレラチーズ工房、上越にクラフトビール醸造所を展開。イタリア食文化に感銘を受けたことで始まった挑戦は、これからも続く。
描き続けるビジョン、夢をかなえる言葉
仕事をしていて何が楽しいかというと、「いいなあ」と思っているものを、一緒に仕事をしているキャストが「いいですよね」と言ってくれること。ワインや食材だけでなく、レストランをどこに作るか、こんなレストランをやりたい、今度はこういうメニューで勝負したい、こういうイベントはどうだろう。内容は広く、仕事全体に渡ります。
同じ価値観を持つ仲間と、〝良い〟を共感し合い、それに惚れ込むんです。
「高橋さん、このワインうまいよね、どう?」
「うまいっす」
「みんなはどう?」
「うまいっす」
「うまいっす」
このやりとりが快感なんです。だから東京のキャストも新潟に呼んで、トマトを食べさせてみたり、山菜採りをさせてみたり。
「こういうの好きです」「こういうのうまいです」「こういうのやりたかったです」。そう言ってくれる人たちがいてくれることが、何よりもありがたいと思います。そういう人たちのために何をしてあげられるか、喜んでもらうためにはどうしたらいいのか。それが考えられるようになってきたのは、私自身の成長だと思います。
ローマ店は、日本と同じメニューで始めましたが、1年後には、ローマ料理に特化しました。せっかくローマにあって、ローマの人がお客さまなのですから、ローマ料理をやってみようと思ったのです。昨今のローマにはおいしいローマ料理店がないので、日本人がちゃんとしたローマ料理を作っているということで、とても喜んでいただきました。
ローマのレストランに来てくださったお客さまは日本人、イタリア人が半々でした。イタリアの景気が良くないのも理由の1つですが、〝なかなか認められなかった〟という現実もありました。2014年版の「ガンベロ・ロッソ」というレストラン評価本に掲載されましたが、目指していたのは、ミシュランガイド1つ星でした。
もう一つ、イタリア料理の調理師学校という夢もありました。東京でやるのか新潟でやるのか。新潟なら土地が安くて、融通もつきますが、生徒を集めるのは東京の方が断然、スムーズでしょう。イタリアのピエモンテというところに「I・C・I・F(イチフ)」という外国人のためのイタリア料理学校があります。その日本校を、私が開けたらと思っていました。
イチフには、世界各国からイタリア料理を学びたい人が集まり、語学の勉強と並行してワインやオリーブオイルなど食材を勉強します。料理ももちろん修業し、半年、現場に出てから自国に帰るというコースです。その学校は15年の歴史がありますが、日本の窓口をやっているのが、新潟出身の野沢寛夫さんです。そのあたりにも縁を感じました。
イチフは、中国政府やブラジル政府から依頼を受けて、上海校やブラジル校を開設しています。ただ、日本校はありません。日本には世界に類のないくらいイタリア料理店があります。世界で活躍する日本人のイタリア料理人を輩出するためにも、その日本校を開校したいと考えていました。

ワイナリーオーナーと歓談する高波利幸。ワインの直接買い付けも、クオルスの特徴の一つ
次回「‘024|受け継いでほしいこと、残すべきこと
高波利幸 Toshiyuki Takanami
1968年、新潟県上越市生まれ。高校卒業後「服部栄養専門学校」に入学し、料理の勉強を開始する。在学中、ヨーロッパに研修でイタリアへ行き、イタリアの食と文化、そして人に大きく感銘を受ける。卒業後、イタリアレストランで修行を開始。7年間東京で暮らしたのち、新潟に帰郷。1993年4月、地元上越市にイタリアレストランをオープン。現在イタリア料理店3店舗、モッツアレラチーズ工房、クラフトビール醸造所を展開。その他飲食店コンサルティング、プロデュースも手掛ける。