‘019 なぜ、イタリア料理なのか?
1993年創業。100年続くイタリア料理店を目ざして、新潟、都内、イタリアへと道を開いてきたクオルス・リストランテ。現在、レストランのほかに、伝統的バルサミコ酢樽をモデナに所有し、都内にモッツアレラチーズ工房、上越にクラフトビール醸造所を展開。イタリア食文化に感銘を受けたことで始まった挑戦は、これからも続く。
なぜ、イタリア料理なのか?
イタリア料理というと、西洋料理の1ジャンルと思われているでしょうが、実際は、日本料理にとてもよく似ています。調理法は、煮る、焼く、蒸す、揚げるの4つ。調味料は醤油かバルサミコかの違いで、見た目はどちらが日本料理かわからないくらい似ているものを作ることができます。イタリア料理イコールトマト味、と思い込んでいる人がいますが、そういうわけではありません。
日本におけるイタリア料理は、さほど歴史が古くありません。私がスパゲッティを初めて食べたのは、小3の時です。新宿あたりで伯父さんに、たしか聚楽(じゅらく)だったと思いますが、連れて行ってもらってスパゲッティナポリタンを食べたら、おいしくて感動しました。
伯父さんに「お代わりしていい?」と聞いて、今度はミートソースのスパゲッティを食べました。それもまたおいしくて、感動しました。今だに親族の間では、「こいつは小さいころにスパゲッティをお代わりするような男だったから、イタリア料理をやってるんだ」とよく言われます。しかし、田舎に帰るとスパゲッティはなくて、がっかりしました。中学に上がったくらいに、ようやく喫茶店のメニューにスパゲッティが現れました。日本中にイタリア料理が普及したのはその頃、1980年代だと思います。
19歳の時、料理人としてイタリア料理をやろうと決めました。調理師学校の研修旅行でドイツ、フランス、イタリアを回ったのですが、最後がイタリアでした。ドイツ、フランスで料理に飽きてしまい、もう重たいものが食べられなくなっていましたが、イタリアに入ってスパゲッティを食べるとホッとして、ピッツァを食べてもホッとしました。小麦粉の香りが良くて、「ピッツァってこんなにおいしかったっけ」と思いました。
イタリアの街角では、立ち飲み、立ち食いのお店があります。そのシーンが非常におしゃれで、印象に残っていたこともあり、帰国後「イタリア料理をやろうかなあ」と思ったのです。当時は、外国の料理といえばフランス料理。次が日本料理と中国料理で、イタリア料理はまだ店も多くありませんでしたし、行こうと言っている人も周りにはいませんでした。
イタリア料理の魅力の一つは、素材選びにあります。例えば、魚料理は魚そのものの鮮度も重要ですが、塩やオリーブオイルの種類、その組み合わせの良し悪しで、最終的に「これはうまい!」という料理になります。
いい素材だけ入れても、合わせるものが間違っていると、とんでもないことになります。奥が深く、やってみないとわかりません。塩は魚用、肉用、野菜用と使い分けられるほど種類があり、オリーブオイルも同様です。私自身、ついこの間までは、オリーブオイルにそんなに種類があるとは知りませんでした。
次回「‘020|「100年続くレストラン」にするためには①
高波利幸 Toshiyuki Takanami
1968年、新潟県上越市生まれ。高校卒業後「服部栄養専門学校」に入学し、料理の勉強を開始する。在学中、ヨーロッパに研修でイタリアへ行き、イタリアの食と文化、そして人に大きく感銘を受ける。卒業後、イタリアレストランで修行を開始。7年間東京で暮らしたのち、新潟に帰郷。1993年4月、地元上越市にイタリアレストランをオープン。現在イタリア料理店3店舗、モッツアレラチーズ工房、クラフトビール醸造所を展開。その他飲食店コンサルティング、プロデュースも手掛ける。